産業保健相談と産業医活動
働く人と会社を守る、これからのメンタルヘルス対策

ここ数年、働く人のメンタルヘルス不調は深刻な社会課題となっています。うつ病や不安障害などを理由に休職するケースは珍しくなくなり、自殺に関連する労災認定も増加しています。厚生労働省の統計でも、精神障害に関する労災請求件数は高い水準で推移しており、これは「誰にでも起こりうる身近な問題」であることを示しています。 こうした背景の中で注目されるのが、産業保健相談と産業医活動です。これは、働く人にとっては「安心できる相談の場」となり、企業にとっては「リスクを回避しつつ会社を守る仕組み」にもなります。今回は労働者と経営者の両方の目線から、その意義や具体的な流れを解説していきます。

労働者目線:安心して相談できる仕組み
仕事のストレスで心や体に不調を感じても、上司や同僚にはなかなか言いづらいものです。そこで役立つのが産業保健相談です。 産業医や保健スタッフは、働く人の立場に寄り添いながら話を聞きます。「眠れない」「気分が落ち込む」「集中できない」といった症状があるとき、第三者である専門職に相談できることは大きな安心につながります。 さらに、必要に応じて精神科クリニックの受診を勧めたり、診断書を発行して休職や勤務時間の調整をサポートしてくれることもあります。産業医が介入することで、従業員が「一人で抱え込まないで済む」体制が整うのです。

経営者目線:リスクを防ぎ、組織を守る活動
一方で経営者にとっても、メンタル不調は無視できない課題です。従業員が長期の休職に入れば業務が停滞し、場合によっては他の社員に大きな負担がかかります。さらに、職場環境が原因でうつ病や自殺といった深刻な事態に至れば、労災認定や訴訟といったリスクに発展しかねません。産業医の活動は、こうしたリスクを未然に防ぐための重要な取り組みです。定期的な職場巡視で環境を確認したり、従業員の健康相談や面談を実施したり、ストレスチェックの結果を踏まえてフォローアップを行うことで、社員の健康を守る仕組みを企業とともに作り上げていきます。これは単なるコストではなく、社員を大切にする姿勢を外部に示すことにつながり、結果として企業の信頼性やブランド価値を高めることにも直結します。
産業保健相談の流れ
実際に産業保健相談がどのように行われるのか、一般的な流れを簡単にまとめます。
1 1.相談の開始
2 2.面談・評価
3 3.医療機関の受診・診断書の発行
4 4.職場との調整
5 5.フォローアップ

精神科クリニックとの連携
精神科クリニックが産業医と連携することで、より安心感のあるサポート体制が実現します。専門的な診断や治療を受けられることはもちろん、診断書や薬の処方をスムーズに進めることができ、必要なときにはオンライン診療を活用して早期に対応することも可能です。このように、医療と職場がしっかりとつながることで、休職から復職まで切れ目のない支援が実現します。従業員にとっては「相談すればきちんと対応してもらえる」という安心感が生まれ、企業にとっては「早めに対処できる」という利点があります。

まとめ
メンタル不調や休職、自殺関連の労災問題は、もはや個人の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき大きな課題です。労働者にとっては安心して相談できる場所を確保することが大切であり、企業にとっては労災や訴訟のリスクを防ぎ、社員を大切にする姿勢を示すことが必要です。 産業保健相談と産業医活動は、その双方のニーズを満たす仕組みとして非常に有効です。当院では、精神科クリニックとしての診療に加え、産業医や企業担当者と協力し、働く人の心の健康を守る取り組みを積極的に行っています。社員のメンタルケアに不安があるときや、休職や復職にどう対応すれば良いのか迷うときには、ぜひ一度ご相談ください。